特定技能ビザが拡大!物流・リサイクル・リネン供給の3分野が新たに追加へ
~深刻化する人手不足への対応策
推定読書時間: 20分
主要なポイント
- 物流倉庫業・資源リサイクル業・リネン供給サービス業が特定技能対象に追加
- 2025年12月閣議決定後、2026年以降に受け入れ開始予定
- 現行16分野からの拡大で合計19分野に
- 業界調査では約7割の事業者が深刻な人手不足を報告
- 企業向けに2025年6月12日に無料ウェビナー開催
目次
第1章:拡大の核心!追加される3分野の詳細と背景
日本の人手不足問題は年々深刻化しており、特に現場で体を動かす労働力確保は喫緊の課題となっています。この課題に対応するため、外国人労働者の受け入れを促進する「特定技能ビザ」制度が重要な役割を担っています。
この度、特定技能ビザの対象分野が大幅に拡大されるという大きなニュースが飛び込んできました。現行の16分野に加えて、新たに「物流倉庫業」、「資源リサイクル業(廃棄物処理含む)」、そして「リネン供給サービス業」の3分野が追加され、合計19分野となる見通しです。
これは、日本の経済活動を支える上で不可欠でありながら、慢性的な人手不足に悩まされてきたこれらの産業に、新たな人材を呼び込むための画期的な政策転換と言えるでしょう。この拡大は、単に労働力を補うだけでなく、各産業の持続的な成長と活性化にも寄与することが期待されています。
1-1. 追加対象分野の具体像と求められる業務
今回、特定技能の対象として追加される3分野は、それぞれ日本の社会インフラや生活を支える上で欠かせない役割を担っています。それぞれの分野で外国人材に期待される具体的な業務と、その背景にある産業構造の現状を詳しく見ていきましょう。
- 物流倉庫業:
現代社会においてEC(電子商取引)の爆発的な普及は、物流業界に未曾有の需要増をもたらしました。商品の入荷、検品、効率的な仕分け、適切な保管、迅速な出荷作業といった倉庫内の一連の業務は、EC市場拡大に伴う当日配達や翌日配達といった高度なサービス要求によって、24時間体制での運営が常態化しています。
特に、フォークリフトの運転やピッキング作業などは、熟練したスキルと体力が必要とされ、人手不足が深刻化している領域です。今回の拡大により、外国人材がこれらの基幹業務を担うことで、物流の安定化に大きく貢献することが期待されます。
- 資源リサイクル業(廃棄物処理含む):
持続可能な社会の実現に向けて、プラスチックごみ、金属くず、古紙などの資源を効率的に再生処理するリサイクル産業の重要性は増すばかりです。この分野では、廃棄物・リサイクル施設における複雑な分別作業、大型機械の操作、中間処理工程、そして最終的な資源の選別といった多岐にわたる業務が発生します。
これらは衛生環境や労働負荷が高い場合も多く、特に若年層の労働者が集まりにくい傾向にあります。外国人材の受け入れは、これらの重要な環境インフラを維持し、循環型社会の推進に不可欠な労働力を確保する上で重要な意味を持ちます。
- リネン供給サービス業:
ホテル、病院、レストランといったサービス業では、タオル、シーツ、作業着、エプロンなどの清潔な布製品(リネン類)の安定的な供給が不可欠です。リネン供給サービス業は、これらのリネン類の回収、大規模な洗濯、仕上げ、品質管理、そして再供給を行う専門的な業態です。
近年、インバウンド需要の回復による宿泊施設の稼働率上昇に加え、医療施設における衛生管理基準の厳格化により、この分野への安定した需要が急増しています。しかし、その一方で、重労働や特定の時間帯での集中作業が必要となるため、安定的な人員確保が非常に難しい状況が浮き彫りになっていました。外国人材がこの分野に加わることで、日本の観光業や医療サービスを裏側から支える重要な役割を担うことになります。
1-2. なぜこの3分野が選ばれたのか?データが示す深刻な労働力不足の実態
政府が今回これらの3分野を特定技能の対象として選定した背景には、各産業における深刻な労働力不足が、具体的なデータとして明確に示されていることがあります。各業界団体が行った調査や報告からは、現在の労働環境がいかに厳しい状況にあるかが浮き彫りになっています。
- 物流倉庫:日本ロジスティクスシステム協会が実施した調査では、調査対象となった物流事業者の約7割が「人手不足」を経営上の喫緊の課題として指摘しています。特に、トラックドライバーの不足と並び、倉庫内作業員の確保は、物流全体の効率と安定性を阻害する要因となっています。
- 資源リサイクル:廃棄物処理施設協会の報告によると、現場作業員の高齢化が顕著であり、平均年齢は55歳以上と非常に高くなっています。これに加え、新たにこの分野に入職する若年層が極端に少ないという構造的な問題が指摘されています。技術継承や労働力の若返りが進まないことで、業界全体の持続可能性が危ぶまれていました。
- リネン供給:日本リネンサプライ協会が加盟社を対象に行ったアンケート調査では、驚くべきことに9割以上の企業が「人手不足が経営上の課題である」と回答しています。これは、安定したサービス提供が困難になり、事業の継続性にも影響を及ぼしかねない深刻な状況を示しています。
これらのデータが示すように、選定された3分野は、日本経済を支える上で不可欠でありながら、構造的な人手不足に直面している共通の課題を抱えています。特定技能ビザの拡大は、これらの産業の存続と発展を支えるための、まさに「待ったなし」の対応策と言えるでしょう。
第2章:政策決定までのロードマップと追加手続きの実際
今回の特定技能分野拡大の方針は、政府内で慎重かつ段階的な議論を経て具体化が進められています。実際に新しい分野で外国人材の受け入れを開始するまでのプロセスと、企業が外国人材を雇用する際に必要となる手続きについて詳しく見ていきましょう。
2-1. 政府の動き:具体化へのステップと今後の展望
特定技能ビザの対象分野拡大は、以下の具体的な段階を踏んで現在進行中です。
- 2025年5月15日:与党内で拡大の必要性に関する協議が開始されました。これは政策決定に向けた最初の重要なステップとなります。
- 2025年5月20日:専門家会議が開催され、各分野における人手不足の実態や受け入れ体制の課題、具体的な運用方法などについて詳細な審議が行われました。この会議での議論が、今後の運用方針策定の基礎となります。
- 今後~2025年12月:上記の協議と審議を経て、各新規分野における具体的な運用方針が策定されます。これには、受け入れ企業が遵守すべき事項、外国人材が満たすべき技能水準や日本語能力などが詳細に盛り込まれます。
- 2025年12月:これまでの検討結果が政府全体の正式な方針として閣議決定される見通しです。
この一連のスケジュールから分かるのは、実際に新分野で特定技能外国人の受け入れがスタートできるのは、最も早くても2026年以降になる可能性が高いということです。企業にとっては、この期間に準備を進めることが重要になります。
2-2. 採用までの道のり:技能試験と日本語試験、そして企業側の義務
新分野で特定技能外国人を雇用する場合、基本的な要件は現行の特定技能制度と共通しており、外国人材と受け入れ企業双方に課せられる義務があります。これらを理解し、準備を進めることがスムーズな採用につながります。
- 特定技能評価試験合格(分野ごとの技能試験):
特定技能ビザを取得する外国人材は、従事する分野において一定の知識と経験があることを証明するため、それぞれの分野に特化した技能評価試験に合格する必要があります。例えば、物流倉庫業であれば、倉庫内作業に関する実務能力を問われる試験が実施されることになります。
- 国際交流基金日本語基礎テストまたはJLPT N4以上の合格:
日本で生活し、仕事を行う上で不可欠な日本語能力を測る試験です。国際交流基金日本語基礎テスト、または日本語能力試験(JLPT)のN4レベル以上が求められます。これは日常会話や業務上必要な指示を理解できる程度の日本語能力を意味します。
- 適正な給与額が保障された特定技能雇用契約の締結:
外国人材は、日本人と同等以上の適正な給与額が保障された雇用契約を締結する必要があります。これは、外国人材が不当な低賃金で働かされることを防ぎ、適正な労働条件を確保するための重要な要件です。
企業側には、単に雇用契約を結ぶだけでなく、外国人従業員が日本で安心して生活し、働くための支援計画の策定と届出が義務付けられています。具体的には、住居の確保の支援、銀行口座の開設や携帯電話の契約といった生活オリエンテーションの実施、必要に応じた日本語学習の機会提供、そして相談・苦情対応など、包括的な生活支援を実施する必要があります。これらの支援は、特定技能外国人材が日本社会に円滑に溶け込み、長期的に活躍するための基盤となります。
第3章:既存分野の進化点~食品サービス業のガイドライン改定も進行中!
特定技能ビザ制度は、新たな分野の追加だけでなく、既存の対象分野においても運用方針のアップデートが継続的に行われています。これは、制度が現場の実態に即してより効果的に機能するよう、柔軟に改善が図られていることを示しています。その中でも特に注目すべきは、「食品製造業外食業」における運用方針の改正です。
2025年6月3日、法務省は「特定技能分野別運用方針(食品製造業外食業)」を改正しました。この改正は、現場からの声やこれまでの運用実績を踏まえ、業務範囲や要件に関する解釈の明確化、そして実態に合わせたより柔軟な運用を可能にすることを目的としています。
例えば、以前は厳格に区分されていた業務内容の一部が、より包括的に解釈されるようになることで、企業は外国人材をより多角的に活用できるようになります。これにより、食品工場や飲食店における特定の業務だけでなく、関連する周辺業務も外国人材が担えるようになるなど、現場のニーズに合致した人材配置が可能になることが期待されます。
このような既存分野のガイドライン改定は、特定技能制度が単なる労働力確保の手段にとどまらず、各産業の特性や変化に寄り添いながら進化している証拠です。企業は、新規分野の情報だけでなく、既存分野の最新情報にも常に注意を払い、制度を最大限に活用していくことが重要です。
第4章:企業のリアルな声・動向を数字で読み解く
特定技能外国人材の受け入れは、多くの日本企業にとって人手不足解消の切り札となっています。では、実際に企業はどのような目的で特定技能外国人材を採用しているのでしょうか。2025年4月に公開された『特定技能外国人採用に関する実態調査』の結果からは、企業のリアルなニーズと動向が数字で明確に読み取れます。
この調査によると、企業が特定技能外国人材を採用する主な理由として、以下の点が挙げられています。
- 45%:人手不足解消のため
最も多かったのは「人手不足解消のため」という回答でした。これは、日本国内の労働人口減少が続く中で、外国人材が欠かせない労働力となっている現状を如実に示しています。特に、若年層の確保が難しい職種や、体力的な負担が大きい現場では、外国人材への期待が非常に高いことが伺えます。
- 27%:特定の知識・技能を持った人材確保のため
次に多かったのは「特定の知識・技能を持った人材確保のため」です。特定技能制度は、即戦力となる特定の技能を持つ外国人に限定しているため、企業は特定の業務を任せられる専門人材として外国人材を評価していることが分かります。これは、技能実習制度との違いを明確にするポイントでもあります。
- 17%:グローバル化への対応・多様性の確保
そして、「グローバル化への対応・多様性の確保」が3番目の理由として挙げられました。外国人材を受け入れることは、単に労働力を補うだけでなく、企業内の多様性を促進し、国際的な視点を取り入れる機会となります。特に、海外市場への展開を視野に入れている企業や、多文化共生を重視する企業にとって、この側面は重要な動機となっています。
さらに、同調査では、特に飲食業や宿泊業の分野において、外国人材の採用理由として「インバウンド観光客への対応」が強く意識されていることも示されました。これは、増加する外国人観光客に対し、多言語対応や異文化理解を持つ人材が求められているという、サービス業ならではの特殊なニーズを反映しています。これらの数字は、特定技能制度が日本の各産業の具体的な課題解決に貢献していることを裏付けており、今後のさらなる活用が期待されます。
第5章:知っておきたい特定技能ビザの基本構造(Type1とType2の違い)
| 比較項目 | 特定技能1号(Type 1) 【対象分野:16分野】 |
特定技能2号(Type 2) 【2024年拡大後:11分野】 |
|---|---|---|
| 対象分野 |
1. 介護 2. ビルクリーニング 3. 素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業 4. 自動車整備 5. 航空 6. 宿泊業 7. 農業 8. 漁業 9. 飲食料品製造業 10. 木材産業 11. 建設 12. 自動車運送業 13. 外食業 14. 造船・舶用工業 15. 鉄道 16. 林業 |
1. 建設 2. 造船・舶用工業 3. 素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業 4. 自動車整備 5. 航空 6. 農業 7. 漁業 8. 飲食料品製造業 9. 外食業 10. 宿泊業 11. ビルクリーニング ※「介護」「鉄道」「林業」「木材産業」「自動車運送業」は2号対象外(現時点) |
| 在留期間 | 通算5年まで(更新可能) | 制限なし(無期限更新可能) |
| 家族帯同 | 不可 | 可能(配偶者・子ども) |
| 技能水準 | 試験合格または技能実習2号修了者 | 高度な熟練技能(実務経験など) |
| 日本語要件 | 日本語試験合格(JFT-Basic、JLPT N4など) | 原則不要(業務上必要なレベルで可) |
| 支援体制 | 受入機関による支援計画の実施義務あり | 支援計画義務なし(高度人材扱い) |
| 在留資格の移行 | 技能実習2号 → 特定技能1号 可能 | 特定技能1号 → 特定技能2号 可能 |
今回追加される物流倉庫業、資源リサイクル業、リネン供給サービス業の3分野は、当面の間「特定技能1号」の対象となります。
しかし、将来的にはこれらの分野でも特定技能2号への移行が認められる可能性があり、これにより、より長期的な外国人材の活躍と定着が期待されることになります。特定技能2号は永住への道も開かれるため、外国人材にとっては日本でのキャリア形成における重要なステップとなります。
(コラム)情報入手はお早めに!6月12日開催 特定技能ウェビナーのご案内
特定技能制度は常に進化しており、最新情報を入手し、正しく理解することが制度活用の鍵となります。この度、公益財団法人ジャパンITコーディネーター協会(JITCO)により、特定技能制度の最新動向と活用方法に関する無料ウェビナーが開催されます。制度の拡大時期に合わせて、企業担当者が知っておくべき内容が網羅されていますので、ぜひご参加ください。
- 日時:2025年6月12日(木)13:30~16:30
- 形式:オンライン配信(Zoomを使用。事前登録が必須となりますのでご注意ください)
- 参加費:一 般:12,100円(消費税込)賛助会員:3,300円(消費税込)
- 内容:
- 特定技能外国人の受入れを検討している方
- 新たに特定技能の担当となった登録支援機関・特定技能所属機関職員の方
- 特定技能制度に関心のある方
制度拡大のこの重要なタイミングで、正確かつ実践的な情報を直接入手できる絶好の機会です。特に、新たに特定技能外国人材の受け入れを検討している企業や、既に受け入れを行っているものの運用に課題を感じている担当者の方にとっては、必見のウェビナーとなるでしょう。詳細はJITCOのウェブサイトをご確認の上、お早めにお申し込みください。
ジャパンITコーディネーター協会(JITCO)の詳細はこちら
よくある質問
- Q. 新分野の受け入れ開始時期はいつですか?
- A. 新分野(物流倉庫業、資源リサイクル業、リネン供給サービス業)での外国人材の受け入れは、2025年12月の閣議決定後、2026年以降に開始される予定です。閣議決定後、具体的な運用開始日が発表される見込みです。
- Q. 特定技能1号と2号の最大の違いは何ですか?
- A. 特定技能1号と2号の最も大きな違いは、在留期間の制限と家族帯同の可否にあります。1号は最長5年の在留期間が定められており家族帯同は原則不可ですが、2号は在留期間の更新に上限がなく、要件を満たせば配偶者や子を日本に呼び寄せることが可能です。これは、2号がより熟練した技能を持つ外国人材の長期的な定着を目的としているためです。
- Q. 企業が特定技能外国人を採用する際の必須要件は?
- A. 企業が特定技能外国人材を採用する際の必須要件は複数あります。まず、外国人材が従事する分野の技能評価試験に合格していること、そして国際交流基金日本語基礎テストまたはJLPT N4相当以上の日本語能力を証明できることが前提です。企業側は、日本人と同等以上の適正な給与額を保障した労働契約を締結し、さらに、外国人材が日本で安心して生活・就労できるよう、住居確保の支援や生活オリエンテーション、相談対応などを含む包括的な支援計画を策定し、実施することが義務付けられています。これらの支援は、自社で行うか、または登録支援機関に委託することが可能です。
