特定技能制度とは?基本概要と目的
特定技能制度は、2019年4月に施行された改正出入国管理法によって創設された在留資格「特定技能」に基づく人材受け入れ制度です。これは2024年6月に成立した改正入管法によって創設が決定した「育成就労制度」と密接に連携し、日本の人手不足分野において即戦力となる外国人材の確保を目的としています。
従来の技能実習制度が「技術移転を通じた国際貢献」を理念とするのに対し、特定技能制度は「即戦力確保」に特化している点が最大の特色です。出入国在留管理庁の特定技能制度概要では、「特定技能1号」で最長5年間の就労が可能、「特定技能2号」では熟練技能を持つ者が在留期間の更新や家族の帯同も可能となります。2024年6月からは、特定技能1号の対象12分野のうち介護分野を除く11分野が特定技能2号の対象となり、熟練技能を持つ者が在留期間の更新や家族の帯同も可能となっています。
賃金や労働条件は日本人と同水準以上が法的に義務付けられ、厚生労働省の監督指針により適切な雇用管理が求められます。特に貴社のような即戦力を求める企業では、技能実習からの移行枠組みを活用するメリットが大きいでしょう。現行の特定技能制度においては、技能実習2号を良好に修了したフィリピン人材は、同一分野の場合、特定技能1号の技能試験及び日本語試験が免除され、特定技能ビザへ円滑に移行することが可能です。これは、今後創設される育成就労制度から特定技能制度への移行においても、同様の円滑な接続が図られることが期待されています。次章では、本制度を活用した具体的な採用ステップを詳細にご説明します。
対象分野と企業の受入条件
様々な事業分野で活躍が期待されるフィリピン人材ですが、「特定技能」制度による受入れには、ご自社の事業内容や体制が法定基準を満たす必要があります。まず確認すべきは事業分野が現在、特定技能1号の対象は16分野(介護、ビルクリーニング、工業製品製造業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、自動車運送業、鉄道、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業、林業、木材産業)に該当することです。(出入国在留管理庁「特定技能の対象分野」)フィリピン人材は英語能力と文化適応力に優れ、ホスピタリティが求められる介護や外食・宿泊業、建設現場でのチームワークで高い評価を受けています。
企業側の受入条件では、次の3点が特に重要です:
- 業種適合性:出入国在留管理庁による審査で、実際の業務が対象業種と一致する必要があります。
- 支援計画の策定義務:「特定技能所属機関支援計画」の提出が必須です(オンライン申請も可能です)。
- 経営の安定性:過去3年間の損益決算書等で事業の継続性を証明しなければなりません。
一方、フィリピン人材の要件は:
- 技能試験合格:業種別の試験(例:介護は「介護技能評価試験」)に合格していること。
- 日本語能力:原則国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)または日本語能力試験(JLPT)N4相当以上の合格が必要です。
特定技能制度では、原則として、企業ごとの受け入れ人数に上限はありません。ただし、介護や建設などの一部の分野では、受け入れ機関の規模に応じた人数制限が設けられています。介護分野については、特定技能外国人及び技能実習生の合計が常勤職員数を超えないことです。(出入国在留管理庁「特定技能ガイドブック」)これにより、多くの企業でより柔軟な人材確保が可能となっています。審査では業種適合性・支援計画・経営安定性が総合判断され、適切な体制を整えれば枠拡大も可能です。フィリピン海外労働者庁(DMW)の認定のフィリピン送り出し機関と連携し、自社の条件を再確認しましょう。
技能実習制度との比較:5つの核心的差異
皆さん、技能実習制度と特定技能制度の違いを明確にすることは、貴社の外国人採用戦略を成功させる鍵です。ここでは、5つの核心的な差異を分かりやすく解説します。まず、目的が根本的に異なります。特定技能制度は労働力不足解消と産業活力向上が主目的で、即戦力の人材活用を重視します。一方、現行の技能実習制度はあくまで途上国への技能移転を目的とする国際貢献で、労働は従属的な位置づけです。2024年6月に成立した新たな育成就労制度は、技能実習制度に代わるものであり、国際貢献という目的を持ちつつも、人材確保の目的も明確化され、特定技能制度との連携が強化される見込みです。
次に、在留期間です。特定技能1号は通算最大5年ですが、2024年6月に介護分野を除く11分野が特定技能2号の対象となったことで、これらの分野では在留期間の更新制限がなくなり、無期限就労が可能となりました。(出入国在留管理庁「特定技能制度について」)一方、現行の技能実習制度は最長5年の段階的履修(3号まで)が必要ですが、失踪や無許可転職などの問題が指摘されており、新たな育成就労制度ではこれらの課題解消が目指されています。
3つ目は転職の自由度。特定技能制度では、同一職種内での転職が認められており、例えば介護分野なら複数の施設間移動も可能です。(出入国在留管理庁「新たな外国人材受入れ制度について」)一方、現行の技能実習制度では原則として「受け入れ企業を変更できない」と法令で厳格に規定されており、これが就労継続率向上の障壁となっていました。今後創設される育成就労制度では、一定の要件を満たせば転籍を可能とすることで、人材の定着とキャリア形成を促進する方針です。
賃金面では決定的な差が。特定技能制度では日本人と同等以上の賃金支払いが法律で義務付けられ、公正な待遇が保証されています。一方、現行の技能実習制度の賃金は地域最低賃金基準が基本であり、一部で不適切な低賃金の問題が指摘されていました。新たな育成就労制度では、賃金の適正化が図られ、特定技能制度と同水準の待遇が求められる見込みです。
最後に、支援義務の範囲。特定技能制度では、住居確保・社会保障手続き・生活相談など、雇用主による包括的な生活支援が必須であり、人材定着率向上に直結します。(出入国在留管理庁「特定技能ガイドブック」)これに対し、現行の技能実習制度では監理団体の役割が中心で、日常生活支援が不十分なケースも散見されました。今後創設される育成就労制度では、監理機関の関与を減らし、受入れ機関(企業)による直接支援を強化することで、より手厚い支援体制が築かれる見込みです。中長期的な人材育成には、特定技能制度、そして今後導入される育成就労制度が最適解と言えるでしょう。貴社の事業成長を加速させる制度選択をぜひご検討ください。
企業メリット・デメリット徹底分析
フィリピン人材の特定技能制度活用は、貴社に大きな価値をもたらすと同時に、いくつかの点で留意も必要です。成功への第一歩は、メリットとデメリットを正しく理解することから始まります。
貴社が得られる大きなメリット3つ:
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即戦力確保:
フィリピンからは、特に介護・外食などの分野で、即活躍が期待される高い技能と知識を持つ人材を獲得できます。この「育てる」以前の「就労できる」人材の確保が大きな魅力です。
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社内の国際化推進:
コミュニケーション能力が高く、オープンマインドなフィリピン人材の採用は、職場のグローバル化を促進します。多様な視点や文化が融合し、チームの創造性や国際感覚が向上します。
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中長期~安定的な人材確保:
特定技能1号は通算5年、そして2024年6月に介護分野を除く11分野が特定技能2号の対象となったことで、これらの分野では在留期間の更新制限が無くなり、事実上無期限での就労が可能となりました。(出入国在留管理庁「特定技能制度について」)技能実習制度と比較して人材定着率がより高く、長期的なキャリア形成を共に描き、安定的な戦力確保に繋がります。
フィリピン人材が持つ具体的強み:
高度な英語力(フィリピンはアジアの中でも英語教育が盛んで、多くの国民がビジネスレベルの英語を話します(Statista調査など))、優れた文化適応力(日本文化への親和性の高さ)、そしてプロフェッショナルな職業意識(誠実さ・勤勉さ)が特筆されます。顧客志向が強い人材が多いことも強みです。
知っておくべき課題とその対策のヒント:
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初期採用コスト:
申請手数料、日本の人材紹介会社への人材紹介・送り出し機関費用(30~80万円程度)、渡日・入社後の初期サポート費用などがかかります。対策:定着率の高さや長期的な成長・貢献による投資回収(ROI)を総合的に見極め、中長期的なコストパフォーマンスを評価しましょう。
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日本語習得の時間・コスト:
業務遂行に必要な日本語能力(多くはN4~N3レベルが目安)の習得には、渡日前後の研修期間と費用(教材費、講師料、社内リソース)がかかります。対策:効率的な研修プログラムの採用(国内外の専門機関やオンライン学習プラットフォーム)や、企業内での実践的なOJTを組み合わせることが効果的です。
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制度運用の継続的対応:
在留資格申請書類作成、雇用契約の適正化、就業規則の周知徹底、定期的な入管・関連省庁への報告など、正確かつ継続的な事務管理が必要です。また、建設キャリアアップシステム(CCUS)など、特定業種における今後の制度拡充・変更にも留意が必要です。対策:外部専門家(登録支援機関、社労士、行政書士等)の積極的な活用、社内担当者への研修実施が必須です。
費用内訳の目安(最新の2025年相場):
- 在留資格申請関連費用(申請手数料等):数万円~十数万円
- 日本の人材紹介会社への人材紹介費用:5~40万円程度(ポジション・機関により幅あり)
- フィリピン送り出し機関費用:10~30万円程度(ポジション・機関により幅あり)
- 渡日前日本語研修・教材費:10~20万円程度
- 渡日時初期支援(航空券・一時居住費・生活必需品等):20~50万円程度
- 入社後研修/OJT費用:社内リソース/外部委託費用(必要に応じ)
重要な視点:
これらの課題は、事前の十分な予算確保と体制構築、そして信頼できる登録支援機関(出入国在留管理庁リスト)などの専門パートナーとの連携により、適切に管理・軽減することが可能です。貴社にとって真に「投資対効果」の高い採用となるよう、メリットを最大化し、課題への備えを万全にされることをお勧めします。
成功する申請プロセス:7ステップ
フィリピン人材の採用を成功に導く7つのステップを具体的にご案内します。まずは「業種適合性の確認」から始めましょう。特定技能1号で採用可能な分野(現在16産業分野)に該当することを確認し、支援計画書を作成します。ここでは「実践的な日本語教育カリキュラム」と「生活適応トレーニング」の具体的な実施計画が審査の鍵となります。
申請書類準備では以下のコア書類に注力ください:
- 会社概要書(直近決算書・福利厚生規程の添付必須)
- 採用証明書類(出入国在留管理庁の要件に準拠した労働条件通知書の対訳併記)
- 登録支援機関との委託契約書(支援業務を外部委託する場合の必須書類)
出入国在留管理局への申請は入国希望日の3~6ヶ月前が理想です。標準処理期間は1~3ヶ月ですが、特定技能2号への対象分野拡大に伴う申請増等により、審査期間が変動する可能性を考慮すべきです。特に重要なのは「適格な現地送り出し機関の選定」です。フィリピン海外労働者庁(DMW)認定機関リストを参照し、求人票の記録を厳格に確認してください。
認定後の必須手続き:
- 在留資格認定証明書(COE)取得後、労働契約内容の法適合性検証(時間外労働上限・最低賃金順守の明文化)
- 給与明細の様式設計(基本給・割増賃金の分離記載と給与支払いトレーサビリティ確保)
- 社会保険加入手続きの申請期限厳守(就労開始14日以内)
近年の申請却下最大要因は「支援計画の実行性欠如」です。具体的には在留支援ガイドライン第5条に基づき:
- フィリピン人向け生活マニュアルの現地語版配布
- 深夜対応可能な多言語相談窓口の設置
- JFT-Basic取得までの日本語教育スケジュール(6ヶ月・12ヶ月目標の数値明示)
などの実効性を定量データ付きで提示してください。登録支援機関との連携や行政書士の事前確認でリスクを最小化できます。
リスク対策:よくある問題点と解決策
海外人材採用の成功には、リスク管理が不可欠です。よくあるトラブルとその対策を具体的に解説しますので、自社の体制を見直す機会としてください。
【離職や訴訟を防ぐ日常的支援策
多くは「雇った後のサポート不足」が原因です。例えば、生活オリエンテーション未実施で孤立したフィリピン人スタッフが早期離職するケースや、賃金計算ミスによる訴訟事例が散見されます。予防策として、給与明細の多言語(英語併記など)による説明を徹底し、入社時及び定期多言語説明会の実施が効果的です。加えて、厚生労働省ガイドラインが推奨する寮の設備点検や通勤経路安全確認を入社前に行いましょう。
【罰則事例から学ぶ法的対応
2024年6月に成立した改正入管法(育成就労制度創設等)を含め、近年の入管法改正では、「書類上の職種と実務の不一致」(例:技術職ビザでの単純作業)や雇用保険未加入、賃金不払いなどの不正行為に対する罰則が厳格化されており、500万円以下の罰金や5年間の外国人受け入れ停止といった実例が増加傾向です。出入国在留管理庁資料に基づく業務内容の厳密管理と、四半期毎の内部監査を必須化しましょう。
【宗教習慣への配慮で文化摩擦を解消
フィリピン統計庁の2020年調査によれば、フィリピンはASEAN唯一のキリスト教国です。国民の83%がカトリック、その他のキリスト教が10%。イスラム教は5%。宗教への対応が不可欠であり、適切な配慮が必要ですが、他国と比べると宗教期な制限はほとんどありません。
【継続的成長を支える仕組み作り
離職防止には体系的な日本語教育が最も効果的です。経済産業省等による外国人材受入れに関する各種ガイドラインや好事例集においても、体系的な日本語教育や生活相談体制の整備が重要視されています。生活面では母国語対応24時間相談窓口を設置し、税金・医療問題を包括支援することで、人材の定着率が大幅に改善することが示されています。
▶ すでに拡大された「特定技能2号」を活用すれば、無期限での継続雇用も可能です。
これらの対策は初期投資を要しますが、人材流出による採用コストの倍増や改正法対応リスクを考慮すれば、貴社の中長期的成長に不可欠な投資となります。日本での生活基盤を確立した人材こそが、貴重な戦力へと育つことをお忘れなく。
(注:リンク先は各機関の最新ガイドライン・統計データを反映)

